ABWとフリーアドレスの違いとは。レイアウトを変えて仕事改革
最近導入され始めた「ABW」とフリーアドレス制とはどのような違いがあるのか、明確に説明できる人は少ないのではないでしょうか。
固定した席を持たないという点では似ているのですが、微妙に違う点もありあます。
なぜ今フリーアドレス制ではなく「ABW」がいいのか、その理由についてまとめました。
自由度がより高く、働きやすい環境を整えるABWを導入してみませんか。今まで自分の席について仕事をしていても全然はかどらなかったという人は、ABWがいいかもしれません。
ABWで生産性は高まるのか?フリーアドレスとの違い
ABWとは、「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略で、オランダのVeldhoen(ヴェルデホーエン)社によって考えられたもの。
仕事の内容に合わせて働く場所を変えることで、生産性を上げていこうという考え方なのです。
好きな場所で働ける
ABWは、仕事の内容によって自分で働く場所が選べるのです。
コツコツと作業をしたいときには小さな個室で。顧客と電話で打ち合わせをしたいときには電話ブースで。気分を変えてアイデアを練りたいときにはカフェに行ってみよう。
働く場所は社内に限っていないので、自宅でもカフェでも好きなところで働いていい、それがABWです。
場所や働き方が固定されていない
そこで気になるのが、フリーアドレスとどう違うのかということです。
フリーアドレスも、個人のデスクを決めずに、好きな場所で仕事をしていいというシステムなのですが、決定的な違いは仕事の内容によって席を変えるかどうか、ということ。
フリーアドレスは「どこに座ってもいいですよ」という日本が作り出したシステムなのですが、あくまでもそれはオフィス内に限っての話です。
執務室のどの席に座ってもいいという、席の自由があるだけです。
それに対してABWは、仕事の内容や目的に合わせて働く場所そのものを変えるのです。
今日は集中して企画書を仕上げる!という時には個室にこもってもいいし、雑談しながらチームで仕事をしたいという時にはミーティングテーブル。
時には通勤せずに自宅で仕事をするのもありです。
だからフリーアドレスの進化系、発展系といわれることもあります。
場所を変えるだけではないのがABW
イメージとしては、大学の授業のように教科によって教室が違う、というようなことが一番近いかもしれません。
中学や高校でも、理科の実験は実験室、美術は美術室などに移動しましたよね。それぞれの教科によって適した場所がありました。
それと同じように、仕事の内容によって場所を変えるというのはある意味当然なのかもしれません。
フリーアドレスはあくまでも「場所」しか見ていないのですが、ABWは生産性や仕事の結果に重点を置いています。
生産性を上げることを重視した働き方
なぜこのような働き方が生まれたのか、それは生産性を上げることを徹底的に追求した結果だとされています。
ヴェルデホーエン社の10の定義を見てみましょう。
- ◆1人でやる仕事
- 1.高集中:自分の作業に没頭する、集中する
2.コワーク:ちょっとくらいの雑談はOK
3.電話、WEB会議
- ◆2人でやる仕事
- 4.二人作業:同僚と作業する
5.対話:二人で相談しながら仕事を進める
- ◆3人でやる仕事
- 6.アイデア出し:ブレスト、グループでコラボ
7.情報整理:進捗報告、連絡、調整など
8.知識共有
- ◆その他
- 9.リチャージ:リフレッシュ、息抜き
10.専門作業
仕事はだいたいこのようなタイプに分類されると考えられ、その目的に合わせて執務スペースを作ることで生産性を上げていこうというのがABWです。
目的に合わせてスペースを作る
10の仕事のタイプに合わせて、仕事のスペースを作っていきます。
- ソロワークスペース
- 一人で集中することが必要な時に使う場所。小さな個室やパーテーションで区切ってブースを作るなど、周囲と遮断された環境。
- 電話用スペース
- 最近は用件を伝えるのではなく、スカイプなど顔を見ながら電話でミーティングをするということも増えています。そのためには周囲を気にせず話せる環境が必要です。
- スタンディングスペース
- ランチの後など眠くなりがちな時間帯に、立って仕事ができるようなスタンディングデスクを置いたスペース。2〜3人のちょっとした打ち合わせにも使えます。
- オープンワークスペース
- 大きなテーブルを置いてチームでミーティングをしたり上司と意見交換する場として使える場所。
大きく分けるとこのような形になります。それぞれ仕事の割合に応じて、スペースの配分を決めていきます。
本当に生産性が上がる?ABWのメリット
決まった場所で仕事をしないということが、本当に生産性に繋がるのでしょうか。
仕事のやり方が選べる
同じ作業をするにしても、人によって静かな場所がいいか、適度な雑音がある方がいいか、感じ方は違うでしょう。
周りに人がいると視線を感じて集中できないという人もいますし、どのような環境が最も集中できるかは、人によって違います。
かといって、Aさんは個室、Bさんはオープンな場所、というように一人一人に合わせて執務室を作ることはできません。
場所を変える=仕事のやり方を一人一人が選べるシステムによって、その人の生産性を最も高めることができるのです。
社員自らが働き方を考える
どこで仕事をするのが最適なのか、それは上司が指示することではありません。
一人一人が時間や場所の使い方を考えて、今やるべきことをどこでやるのが最適なのかを選ばなくてはいけないのです。
コストを削減できる
これまでのオフィスレイアウトだと、従業員全員の座席を確保する必要がありました。
それに加えて、会議室などのスペースも用意しなくてはならないため、場所の準備だけでも相当な費用がかかります。
執務面積の効率化を図ることで、最小限のスペースで最大限のパフォーマンスを実現できることになります。
ライフワークバランスを大事にできる
好きな時に好きな場所で働けるので、時には自宅勤務も可能になります。また、カフェに寄ってから会社に行くというようなこともできます。
わざわざ電車が混んでいる時間帯に通勤する必要もなく、無駄な移動時間を減らすことにもつながります。
従業員からするとワークライフバランスを大事にしながら働くことができるようになる、画期的なシステムです。
アイデアが生まれやすくなる
仕事の内容に合わせて場所を変えられるということは、スペースの間の移動も増えて、従業員同士のコミュニケーションも活発になるというメリットがあります。
また、歩くことによって頭の切り替えがスムーズになったり、リフレッシュできたりというメリットも。
そのおかげで、新しいアイデアなどが生まれやすくなるという効果も期待できるのです。
失敗することはない?ABWのデメリット
いいことばかりのように感じられるABWですが、デメリットはないのでしょうか。
うまくいかなかった事例を見ることで、失敗を防ぐことができるでしょう。
結局席が固定化してしまう
自由に座っていいですよ、自由に仕事をしていいですよ、というだけではなかなかうまくいきません。
なんのために導入するシステムなのかということを理解してもらわないと、席が固定化して新たなコミュニケーションも生まれなくなってしまいます。
場所の目的が浸透していない
ABWにはそれぞれの場所に目的があり、その目的に合わせて働く人が場所を選ぶのですが、なんのための場所なのかということが浸透していないと、利用してもらえないという事態も。
よくある失敗例としては、せっかくラウンジやカフェスペースを作ったのに利用率が低いということです。
何故そこで仕事をした方が捗るのか、という利用目的を浸透させるのは大事なことですね。
管理職の腕が試される
これまでオフィスでは、管理職のデスクの周りのそのチームを配置しますから、一目で部下の動向がわかりますし、部下は嫌でも上司の近くにいることになります。
また、部下がどこで何をしているのかが把握しづらくなりますので、仕事の進捗状況を確認する方法を自分なりに確立していかないと管理職の仕事を全うできません。
部下に自由を与える分、管理職としての腕が試されます。
結局、使う人がメリットをわかっていないと意味がない
ABWを導入してみてうまくいかない時によく聞かれる意見は、
- どうやって使えばいいのかわからない
- 場所を変えることのメリットがわからない
ということです。
人は変化を嫌う生き物ですが、日本人はその傾向が海外と比べて強いでしょう。「新しいものを導入する」と言っただけで拒絶反応を示す人すらいるのです。
また、部下の自律性、自主性が低いとうまくいきません。自ら考え動ける人材を育てる必要があります。
ABWを取り入れるために必要なこと
ではABWを導入して成功に導くためにはどうすれば良いのでしょうか。
業務内容が適しているかどうかを考える
ABWは確かに素晴らしいシステムですが、どのような業務にも適しているかというとそうではありません。
例えば経理の仕事などデスクワーク中心の仕事は在席率の高い仕事です。
総務などは各部署との連絡業務も多く、あちこちに移動されるよりも、むしろ自席にいてもらった方が周りの人の仕事を進めやすいでしょう。
逆に、営業職のように自席にいることが少ない仕事や、企画業務など頭さえ使えれば自席にいる必要のない仕事はABWに向いています。
どのような業務内容で、本当にABWを導入するメリットがあるのかということの検討は必須です。
働き方を調査する
ABWがコストカットできるのは、席の利用率などを調べて、必要最低限のスペースを用意すればそれで済むからです。
従って、座席の使用時間を調査し、それに合わせて必要なスペースを洗い出していきます。
同時に、
- 現在のオフィスの不満
- 無駄なスペースはないか
- 取り入れた方が良い設備
などについて、実際に働く従業員の声をよく聞くということが大切です。
ミーティングする場所が少ないと感じているなら、一人の仕事にも向いているファミレス席を増やすという方法もあります。
働き方をどう変えたいのかを考える
なぜABWを導入する必要があるのか、従業員が基本から考えるというのも大切なことです。
上からの押し付けで新しいシステムを導入しても、決してうまくいかないからです。
これまでの働き方でどのような無駄が出ているのか、生産性を上げるとはどういうことなのか。
仕事のやり方を根本から見直し、ABWがどう役に立つのかということを理解しておかないと失敗します。
上司と部下の信頼関係
これまでのように、目の前に部下が座っていて、何をしているか見えている状態ではなくなるので、上司と部下の信頼関係というものがこれまで以上に大事になってきます。
それではABWは導入できません。部下を疑ってばかりでは、結局上司の周りでだけ仕事をするようになり、ABWを導入した意味がなくなってしまうからです。
上司は自分が「監視」しなくても部下から成果物が上がってくることを信じて、自分は自分の仕事をするだけです。
仕事の成果を正しく評価する仕組み
仕事の途中経過はわからなくなるので、上がってきた成果物を正しく評価する仕組みが必要です。
リモートワークなどを可能にすること
小規模なオフィスは、執務室以外のミーティングスペース、電話スペースなど目的に合わせたスペースを全て揃えることが難しい場合も出てきます。
座席数は従業員の60%程度をカバーできれば十分ですが、それでも足りない場合には
- 自宅勤務を可能にする
- カフェなど社外でも勤務OKにする
- フレックスタイムを導入する
というように、従業員のライフスタイルや仕事のやり方に合わせて、柔軟な働き方を認めていくことが必要です。
日本に根付くか?ABWという新しい取り組みで生産性をアップさせよう
日本人は海外から入ってくる新しいものにいち早く飛びつく人がいる一方で、変化を嫌う保守的な人が多いのも現実。
ABWが日本に根付くか、この働き方で生産性が上がるかどうかは、働く私たちの意識改革に鍵がありそうです。
これまでのように、与えられた仕事を指示されたようにやっているだけではダメなのがABW。自分で考え、自分で計画を立て仕事をこなしていく自律性が求められています。
ただ、自分で仕事を進めていける人にとっては非常に働きやすいシステムです。より良い人材を集めるためにもABWを導入し、最小限の時間とスペースで会社の業績を上げていければいいですね。